85 / 115
第85話 一時の幸せ、永遠の杞憂
ここで稼ぎ始めて2年ほどが経っていた。
そろそろ借金も無くなっているのではないかという淡い期待を抱いていた。
でも、そんな希望は、あっさりと打ち消される。
家や仕事を用意してもらうよりも、どうせなら借金を帳消しにして欲しかったよ……。
残念がっているオレを尻目に、黒藤の話しは続く。
「ついでにオレ、あそこ辞めたから。あんな小さい金融屋で納まるようなタマじゃないんだよね、オレ」
得意気な顔でオレを見やった黒藤は、言葉を繋ぐ。
「さっき評判良いって言ったでしょ? あんた、引く手数多 だったんだよ」
堪えきれないというように、くくっと詰まる笑いを零す黒藤。
一頻りニヤついた黒藤はオレに瞳を据え、再び口を開く。
「あんた連れてくから、オレを相談役にして、顧問料ちょうだいって言ったら、あっさり飲んでくれてさ。あの金融屋、副業禁止とかほざくからさ、ちょっとヤンチャな事務所に鞍替えしたんだ」
視線を逸らせ、チッと小さく舌を打った黒藤は、再びオレを見やり言葉を繋ぐ。
「で、あんたの債権は、新しい事務所が握ってるから。つまりは、あんたの面倒はこれまで通りオレが見るってコトで…これからも、ヨロシクね」
にこりと微笑む黒藤に、オレは諦めの息を吐く。
「嫌だっていったって、変わんねぇんだろ」
連れないなぁ、と詰まらなそうに呟く黒藤。
たぶん、オレなどというオマケがなくとも、黒藤は〝相談役〞として迎え入れられただろう。
自分の利益のためなら使えるものはなんでも使う恩情とは無縁の男だが、頭の回転が速く狡賢い黒藤を、手元に置くという選択は、賢明な判断だと思えた。
「そういえば、家探すときに面白い話し聞いたんだけどさ」
にやりと笑う黒藤に、オレは警戒の眼差しを向けた。
「あんた、清白の坊っちゃんとデキてたんだってね?」
予想もしない角度の言葉に、一瞬、頭が真っ白になった。
家を探す過程のどこに、そんな情報が耳に入るタイミングがあるのかと訝しむ。
眉根を寄せ怪訝な瞳を向けるオレに、黒藤は、にんまりとした笑みを崩さない。
「あんたの家、用意するのに泊里不動産に頼んだんだよね。泊里、高校の同級生なんでしょ?」
家探しの過程で得たという郭遥とオレの関係に、泊里の名を聞き、腑に落ちる。
オレたちの関係に、あの頃の泊里が気づいていたとしても、不思議はない。
実質、郭遥とオレは、そういう関係だった。
掘り起こされた過去の繋がりに、後悔が胸に蔓延る。
一時の幸せを選んでしまったが為に、永遠の杞憂が胸を蝕む。
郭遥の平穏を脅 かす火種は、延々と燻り続けていた。
ともだちにシェアしよう!