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第92話 腹を割れ

 郭遥は、何も悪くない。  気づかなければいけなかったコトなどない。  オレを探さなくてはいけない義理などない。  オレが、勝手に消えただけ。  郭遥が負うべき責任なんて、どこにもないじゃないか。  郭遥の胸を押し、囲うように回された腕の檻から抜け出した。 「なんで、お前が謝るんだよ……」  呆れ口調で放ったオレの言葉に、郭遥は微かに眉根を寄せた。  気持ちを切り替えるように、ふっと息を吐いた郭遥は、傍らに置いたビジネス鞄から、見覚えのあるパッケージに包まれたディスクを取り出す。 「これは、お前が望んでしたコトか?」  オレの痴態が、映像として納められているディスクが眼前に翳された。  パッケージのジャケットは、顔こそ映ってはいないが、全身のバックショットだ。  自分で自分の身体を抱き締めているその背と尻には、斜め上から射す照明の光を受け、鮮やかな赤い鞭の痕が踊る。  このディスクに、あの場所への迎え。  オレが何をしていたのか、郭遥は全て知っているのだろう。  隠したり飾ったりするだけ、無駄骨か……。 「なかなかエロかったろ? オレ、評判良いらしいんだよ。オレの天職なんじゃね?」  郭遥が掴んでいるディスクを指で弾き、にたりと笑ってやる。  ふっと鼻から息を逃した郭遥は、呆れ混じりの声を放つ。 「こんなもので勃つヤツの気が知れない……監督も監督だな。お前の魅力の一欠片すら引き出せてない」  侮蔑するように細めた瞳でパッケージを見やった郭遥は、言葉を繋ぐ。 「……ま、お前の本当の魅力を世に知られずに済んだっていう面では良かったけどな」  ふっと蔑みの笑みを浮かべる郭遥に、オレの心臓が、どくんと一鳴きする。  一拍の余白を置いた郭遥は、オレの本心を見透かすように、腹底に響く声色で問うてくる。 「お前の意思じゃなく、金のため…なんだろ?」  鋭く刺さる郭遥の視線は、オレの強がりの鎧を剥がしにかかる。  吐いて楽になれとでもいうように、オレの心を暴こうとする。 「これは7年前…、22歳くらい、だよな?」  その頃には既には、これに出なきゃならないくらい借金があったってコトか、と郭遥は口惜しげに呟いた。 「高校の頃から〝帰れない〞って…、家の問題抱えてたよな……、その延長線上なんだろ? 俺の前から消えたときには腹括ってたってコトか」  チッと小さく鳴らされた舌打ちの音に、叱られているような居心地の悪さを感じた。  淀みなく伸ばされた郭遥の手が、オレの頬に触れ、哀しげな瞳が見詰めてくる。 「なんで、言ってくれなかったんだよ」  俺ならば、お前を救えたと後悔に塗れた視線が責めてくる。

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