94 / 115

第94話 汚れたオレに相応しい場所

 オレは、あらゆる手垢で汚れてる。  金のために売った…、身体も、心も。  あの頃の綺麗なオレは、もういない。  オレの胸の上で、郭遥の手が悔しげに拳を握った。 「俺が、仕事をやる」  拳を見詰めていた瞳が、するりと上がりオレを睨むように見詰めてくる。 「新しく始める秘密倶楽部で働いてほしい」  郭遥の言葉に、オレの眉根には深い皺が刻まれる。 「秘密倶楽部?」  淫靡な音を含む言葉に、思わず復唱していた。 「完全会員制のゲイ風俗だ。お偉いさんを相手に、本番ありの完全会員制のゲイ風俗店を立ち上げるつもんなんだ。体裁も世間体もなにもかにもを気にしなくて良い場所を作りたいんだよ」  汚れたオレには、相応(ふさわ)しいという訳か……。  オレが金を稼ぐためには、身体を売るしかないのだと、改めて思い知らされる。 「勤まるか……? オレ、身体ボロボロで見た目も悪いし、若いコの方がいいんじゃねぇの?」  映像なら誤魔化せるが、オレの身体はもう直視には堪えられるほどの美麗さはない。 「勘違いするな。お前に頼みたいのは、管理業務の方だ」  言葉に、オレは瞳を(しばたた)いた。 「いや、オレに管理なんて無理だろ」  身体の前で振るうオレの両手を捕まえた郭遥は、子供に言い聞かせるように丁寧に言葉を紡ぐ。 「お前は、昔から頭が良かった。覚えは早いはずだ。仕事は俺が教える……もう、自分自身を売らなくていい」  きゅっと哀しげに潜まされる郭遥の眉。  キスを仕掛けるように、そのまま近寄ってきた郭遥の顔が、躊躇(ためら)うように数センチの距離で止まった。  なにを躊躇っているのか……。  わからないオレは、惹きつけられる気持ちのままに、その唇を奪う。 「……ありがとう」  オレには、その言葉しか思い浮かばなかった。

ともだちにシェアしよう!