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第98話 天職じゃないというのなら

 愁実の造られた笑みを壊してやろうと、荒く唇に喰らいつく。 「ん………、ふふ…っ」  キスの合間に、愁実の笑い声が漏れ聞こえた。  余裕そうなその仕草に、ちりちりとする苛立ちが、俺の神経を逆撫でる。 「笑ってられなくしてやるよ」  愁実の唇を貪りながら、衣服の上からその身体を撫で回す。  脇腹を這い降りた指先で腰骨を擽り、尻を鷲掴む。 「ちょ……、ヤるなら、…あっちで」  俺の胸を押し、顔を離した愁実が寝室へと視線を飛ばす。  俺の首をきゅっと締め上げているネクタイに人差し指を掛け、横に振るい緩めた。  俺を遠ざけようと押してきた愁実の両手を、首許から抜き去ったネクタイで一纏めに括る。  されるがままに両手を身体の前で縛られた愁実は、きょとんとした瞳で俺を見やる。  ちょうど愁実の顔の横にある吊棚に、ネクタイの端を結んだ。 「お前がこういうプレイが好きだとは、知らなかったよ。こっちの方が興奮するんだろ?」  縛り上げたネクタイ越しに吊棚を握り、にたりと笑む。  両手の自由が奪われた愁実の瞳が、困惑に揺らいだ。  片手で吊棚に絡むネクタイを掴んだままに、シャツの裾から空いている手を忍ばせた。 「なんで、そうなるんだよ?」  呆れ口調で紡がれた言葉に、素肌を撫で上げながら、細くした瞳でじっとりと見詰めてやる。 「〝天職〞だったんだろ?」  嫌味ったらしく紡いだ言葉に、疲れ混じりの吐息が、愁実の口を衝く。 「言葉のあや、だろ……」  そうとでも思わなければ、やってられなかったのだと、愁実は顔を曇らせた。  肌を舐めていた手を滑らせ、ベルトを外す。  下着ごと下げ、愁実の下半身を露出させた。  軽く頭を擡げ始めただけで、さほど反応を示していないペニスを掌の上に掬い乗せた。  やんわりと握り込めば、ぴくりと反応を示すそこを緩く撫で上げる。  映像ではモザイクが入っていたが、見られながらのセックスに、そこが反応していたのを思い出す。  視線で犯すかのように、俺の掌の中で硬さを増していくペニスを凝視した。  拘束された両手に、恥ずかしい場所を隠すコトすら儘ならない愁実の顔から余裕の色が薄らいでいく。 「そんな…、じろじろ見るな……っ」  羞恥に堪えられなくなった愁実は、噛みつくように声を放つ。 「見られるの、興奮するんだろ」  にたりとした笑みを乗せた瞳で、赤く染まる愁実の顔を覗き込む。  愁実の恥じらいが、俺の腹を熱くする。  自由が効かない身体で、俺の視線から逃れようと腰を捻り足掻く愁実に、内腿をさわりと撫で上げた。 「俺が仕事を与えなかったら、あの場所に戻りたかったんだろ? 〝天職〞じゃないっていうなら、戻りたい理由は何なんだろうな……?」  〝愛おしい相手がそこにいるからなのだろう〞と暗に含んだ言い回しで問うてやった。  俺の問いかけに答える気はないらしく、愁実の瞳は面白くなさげに宙を睨む。

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