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第99話 返らない音

 シャツを捲り上げ、口許へと運んだ。  俺の顔色を読んだ愁実は何も言わずに、シャツの端を噛む。  俺は数歩下がり、遠目に愁実の姿を瞳で舐める。  拘束された自由の利かない両手も。  存在を主張する乳首を、自ら曝け出しているような格好も。  興奮し涎を垂らすペニスも。  全てが淫靡で、視覚から俺を煽ってくる。 「良い眺めだ」  ふっと鼻から逃す息に、愁実の瞳が目蓋の裏へと隠される。  心変わりの申し訳なさから、居心地の悪さを感じ、この場からの逃走を図ったかのように。  納得がいかなくとも、飲み込まなければいけない現実に、諦めの吐息が口を衝く。  解せない苛立ちが、愁実の心変わりを咎めろと、俺を急かした。  曝け出されている左の乳首を摘み、きゅっと捻り上げた。 「………っ」  痛みに顔を歪めた愁実は、訳がわからないと言わんばかりに泣きそうな瞳で俺を見やる。  今度は、右の乳首を親指の腹で優しく捏ねる。  ふっと甘く掠れた息を零した愁実の腰が、柔く揺らいだ。 「お前は、苦痛より快楽の方が良い顔をする」  捻り上げた左の乳首に顔を寄せ、労るように、ねっとりと舌で舐め上げてやる。 「………んっ」  はぁっと熱の籠る吐息を吐いた愁実は、もっとと強情るように胸を押しつけてくる。  硬くなる乳首の感触を楽しむように、歯に挟み、こりこりと転がし、舌で押し潰す。  右の手を脇腹から腰骨、下腹部を滑らせ、天井に向かい反り返るペニスを緩く握り込む。  涎を垂らすそれを、ゆるゆると扱けば、とぷりと溢れるカウパーが、さらに滑りを加速させた。 「ん、……ぁ、く…」  俺の手の動きに合わせるように、愁実の腰が淫らに揺らぐ。  ぶるりと震える愁実の身体に、ペニスの根元を、ぐっと握り塞き止めた。 「く……ぁ、…」  きゅうっと切なげに寄せられた眉で俺を見やる愁実の瞳。  そこにはもう造られた笑みはなく、熱に媚びる切羽詰まった顔があるだけだった。  堪らなく俺の心を煽るその顔に、背骨が痺れる。 「好きだ、任」  俺の胸を熱くする恋情が、想いの丈を紡がせる。  微塵の期待に、胸を弄っていた左手で愁実の頬に触れ、視線を交わす。  愁実の声で紡がれる〝好き〞の2文字を待っていた。  俺の言葉と同じ温度の声が、返って来るはずなど…、ないのに。

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