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第102話 ちらつく金の影
快楽になど屈しないと必死なまでの抵抗を見せておきながらも、じわじわと切り崩された理性の隙間から見える悦楽に従順な本能は、堪らなく男心を擽り煽ってくる。
もっと、ぐずぐずに。
もっと、どろどろに。
なにも考えられないくらいに、溶かしてしまいたいという欲求が心を掻き立ててくる。
愁実の頬に唇を寄せ、流れる涙を掬い取る。
解放してもらえないペニスに、涙を吸われるその刺激にさえも、愁実は身体を跳ねさせた。
吊棚に拘束されたままの両手が、ガタガタと音を鳴らす。
自由になりたいというよりも、俺に触れたいと暴れているように感じられた。
繋がるネクタイの端を解けば、一纏めにされたままの両手が、俺の頭を越して首に絡みついてくる。
全身で撓垂れてくる愁実の身体を片腕で抱き止めた。
不安定な身体を燻らせ、ちりちりと揺蕩う快感だけを素直に追いかける愁実。
オレの中で弾けてしまえとでもいうように、きゅうきゅうと俺を絞り上げてくる肉襞に、神経の全てが持っていかれる。
「はぁ……もっ、と…、もっと…シて………、オレで……イって…」
俺の首筋に鼻先を擦りつけ、熱っぽく囁く愁実。
紡がれた言葉はまるで、性処理の道具として利用してくれとでも言っているかのようで、胸の奥が不快感で満たされる。
その声から、いやらしさは感じるのに、俺が欲して止まない〝恋しい〞という想いは、気配すらも察知できない。
代わりにちらつくのは、金の影。
あの場所に愁実を繋ぎ止めていた〝借金〞という鎖を外すために、俺はそれを肩代わりした。
愁実を囲うつもりで金を出したわけじゃない。
ただ愁実を自由にしたかっただけだ。
でも、愁実にしてみれば、債権者が俺に移っただけの話で。
今までの生活と、なんの変わりないもない。
俺の腕の中にいる愁実は、金で囲われている〝愛人〞というスタンスを崩さない。
優先されるべきは俺の家族で、自分は都合のいい性欲の捌け口だとでも思っている。
一線を引くような、冷めた空気感が、ひしひしと伝わっていた。
愁実の中から消えてしまった〝好き〞という感情が、俺の中でも同じように失せたものとして捉えられている。
こんなにも恋しくて、こんなにも愛おしく思っているのに……。
簡単に偽装できてしまう言葉を山ほど紡いだところで、愁実には伝わらない気がした。
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