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第104話 意味などないと知っている

 全てを消し去り、全てを上書きしてやりたい。  噛みついた場所が鮮やかな紅色に変化する。  痛々しいその場所に、贖罪の念を乗せ、舌を這わせた。  八つ当たり以外の何物でもない俺の行為は、咎められても返す言葉もない。  なのに。  愁実は縛られたままの指先で、柔らかに俺の後頭部の髪を弄る。 「全部、して。上書きして、郭遥のものにしてよ……」  求めていた言葉が耳許で囁かれ、背がぞわりと震えた。  噛みついたところで、消えやしないとわかっている。  深く染み着いてしまった痕は、一朝一夕で消せるものじゃないコトくらい承知している。  それでも俺は、その痕跡を消し去りたく、襟許の隙間から見える傷痕にも牙を立てる。 「ぃ……ぁあ…」  痛みに強張った顔が、ゆるりと弛緩し涙塗れの笑みを見せる。  言葉を紡ごうと開きかけた唇が閉じられ、重なった。  猥褻に腰を燻らせながら、俺を締め上げる愁実の身体が精液を強情る。  両手で尻肉を鷲掴み、左右へと開いた。  もっと奥へ。もっと深くに。 「……ぁ、ぃぁ……あ、ぁう……ひ、ぁ、…」  重く突き上げる度に、愁実の口から艶かしい嬌声が零れた。  ぐっぷりと嵌まり込んだままに、腰を突き上げる。  愁実の腹を突き破らん勢いで押し込んだペニスが、うねる肉襞に可愛がられ、堪らない刺激に精液を弾けさせた。 「…………っ、はっ」  あまりの刺激に、眉根が寄った。  ぞわりと走る快感に、身体がぶるりと震える。  これは俺のものだとマーキングするように、吐き出した粘液を、いやらしく媚びてくる襞に塗りつける。  腹の中に撃ち込んだ精液が、粘膜に染み込み吸収されてしまえばいいとさえ思う。  上書きなど、意味はない。  マーキングなど、意味はない。  わかっていようとも、止められなかった。  一発では満足できない俺は、意識を飛ばしかけている愁実を揺り起こすように、抜かぬままに、腰を振り続けた。

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