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第32話

周りも突然風太に声を掛けられ何事かと風太に注目する。 俺は心の中でこんな沢山の人の輪に入れる勇気がある風太は凄いなと感心していた。 でも、さすがに風太も怖かったのだろう…凪沙の周りにいる人達はお洒落でコミュ力高い集団だ。 明るく元気が取り柄の風太だって友人と呼べるのは俺と椿だけだった。 あまり目立つのは好きじゃなかった。 でも、友人のために風太は口を開いた。 「俺、が…ヒロインやりたい!」 俺や傍観者を含めた周りが驚いて風太を見ていた。 いきなり風太は何を言い出すのかその理由は誰にも分からなかった。 風太はヒロインをやりたいなんて一度も聞いた事がなかった。 でもこのタイミングで言うという事は俺を助けようとしてくれたのだろうか。 凪沙と初めて対面した時も風太は助けてくれた。 ……助けられっぱなしで感謝と同時に自分は何も返してないもらってばかりだと思った。 風太は決定権は凪沙にあると思い凪沙に詰め寄った。 「何?」 「和音は嫌がってる、こういうのはやりたい奴がやればいいと思うんだ…昨日の言葉からして男なら誰でもいいんだよね、だったら僕でもいいよね」 「いや、でも…凪沙が指名したから…岸がやると凪沙が」 「………いいよ」 福田は凪沙の顔色を伺いながら言うが、凪沙は少し間を置き頷いた。 俺が相手じゃないと降りると言っていたのに凪沙は風太に笑った。 …凪沙が何を考えているか分からない顔だ。 風太もあっさりし過ぎて唖然としていた。 俺のわがままで風太にそんな迷惑掛けられない。 風太のところに行こうと立ち上がったら凪沙が口を開いた。 「昨日決まったばかりだから台本もまだ覚える時間あるし、昼休みと部活終わったらでいいから放課後付き合ってね」 「わ、分かった」 タイミングよくチャイムが鳴り響いた。 風太を心配そうに見つめたら親指立てて安心させるように笑った。 …凪沙が風太になにかしなきゃいいけど…と頭の中いっぱいになった。 昨日したキス…するのだろうか、あの二人のキスシーンとか想像出来ない。 ちょっと、胸が痛んだ。 ーーー 昼休み、風太は劇の練習のため一緒に食べれなくなった。 椿くんと二人で廊下を歩く。 二人っきりになったのは初めてで、いつも風太が話題を出してくれていたからいざとなると何も話すことがない。 「まさかそっちのクラスが劇なんてなー、しかも風太がヒロインとか…ちょっと見てみたい」 「…俺のせいだ、ごめんなさい」 「俺に謝るなよ、風太が決めた事なら思いっきり楽しもうぜ」 椿くんに励まされて少し元気になった。 風太が助けてくれた、その勇気を無駄にしちゃいけない。 きっと俺が演じるより風太の方が似合うと思った…風太は童顔だし… 二人で食堂に向かった。 今日は生徒会は現れなかった、生徒会も劇の練習をしているのだろう。 話題が長く続かずいつもより早く食べ終わり、まだ昼休みが余ってるから風太を見に行こうという事になった。 教室に近付くとギャラリーが今朝より増えている。 女の子達はボーッと見惚れていて男子までも魅了していた。 椿くんと目を合わせて首を傾げて教室を覗く。 俺と椿くんは目を見開いて眺めていた。 そこには美しい光景が広がっていた。 今朝みたいに衣装を着てるわけじゃないのに凪沙はキラキラした砂糖菓子のような甘い王子様の雰囲気を出していた。 昨日までの彼はいったい何だったのか役になりきっていた。 昔から凪沙は全て完璧だった。 運動神経も抜群でいつも一位で運動会なんて中心人物になるほどだった。 勉強も出来て、担任が間違えた誤字を指摘して書き直したりしている…勿論テストは一位以外取った事がない。 演技まで出来たのは知らなかったが凪沙なら不思議じゃないだろう。 凪沙をずっと苦手としていた筈の風太でさえ凪沙の演技に頬を赤くして固まっていた。 セリフを言うが全く頭に入ってない様子だった。 「岸くん、セリフ」 「…え、あ…ごめん!」 風太が謝ると周りの人は凪沙の魔法が解けたようにハッとして笑って許していた。 俺の時はあんな明るい雰囲気じゃなかった。 自分が空気を乱していたのだろう、風太も楽しそうだし変えてよかったと思った。 ずっと俺のままだとあんな風にはならなかった。 そこの場所には俺は必要なかったんだ。 一緒に来ていた椿くんをチラッと見たらなんか複雑な顔をしていた。

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