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第33話

「椿くん?」 「…あんな風太初めて見た」 そう言われ再び風太を眺める。 確かに俺達といる風太は楽しくないわけではないがちょっと大人びた面があった。 冷静に楽しんでるような…だからこんなに子供っぽく笑う風太は初めて見た。 凪沙がそうさせたのか、だとしたら友達を取られたようでちょっと悔しかった。 …俺を庇ってくれたのに本当に自分勝手だと思う。 あそこが風太の居場所なのかな。 「この前まで白川くんの事苦手だって言ってたのにな」 「あっ!和音!椿!」 風太は二人に気付いて駆け寄ってきた。 俺と椿くんの腕を引いて教室の中に入れる。 チラッと凪沙の方を見たら、目が合った。 むしろずっと見ていたようにゾクッと全身に悪寒が走る。 凪沙の視線は俺から俺の腕を掴む風太の手に向けられた。 嫌な予感がする、怒ってる? 早く振り払わないと風太になにかするかもしれない。 風太は凪沙の事を苦手じゃなくなったみたいだが凪沙は違う。 それはまるで道端に落ちてるゴミを見るような…明らかな嫌悪。 「二人共来てたんなら教えてよ!特等席で見せてあげ…」 「っ!!」 思いっきり振り払うと風太は驚いた顔をしていた。 風太は何も知らないから嫌な気分になったかもしれない。 すぐに我に返り謝ろうと口を開くが声が出なかった。 凪沙が風太の後ろにいた。 凪沙の指が風太の首に絡み付く。 ふと凪沙に首を絞められた時の苦しさ怖さを思い出した。 風太にそんな目に合ってほしくない。 でも、どうすればいいか分からない…助けられない? 初めてだった、普通の友達が出来て嬉しかった。 SNSをやって一緒にごはん食べて…遊びに行って…全てが初めてで楽しかった。 いつか一緒にあの喫茶店でごはん食べたかった。 まだまだ知らない事は沢山あった。 それを友達とやりたかった。 だから俺は凪沙から風太を守りたかった。 弱いままの自分じゃダメなんだ。 考えるより足が動いた。 風太が凪沙の方に振り返った。 大きな音が聞こえた。 これは天罰なのだろうか、目の前が真っ暗になる。 机と椅子が倒れている。 その真ん中で風太が尻餅を付いていた。 俺は口で言っても凪沙は止めない事を知っていたから風太を押した。 風太はそのまま机に激突した。 椿くんが慌てて風太に駆け寄る。 背中を打ったのか顔を歪める風太。 …これは全て俺がやった事… 誰かが「…最低」と呟く声がした。 自分でも最低だと思う、助けようと自分勝手に動いて結果風太を傷つけた。 風太に駆け寄りたかったが、足が固まり動けなかった。 きっと風太の目を見たからだろう。 いつも誰にでも優しく一緒に居てもつまらない俺を気遣い一緒にいてくれた。 大切で大好きな友達… 今その目が和音に向けられている。 明らかな嫌悪感…敵意…拒絶… 涙が溢れてくる、全て俺が凪沙に怯えてしまった弱さが招いた結果だった。 違う、凪沙のせいじゃない…全部自分のせいだ。 「襟に付いてたゴミを取ろうとしただけなんだけど」 そう横から声がして視線だけ横に向ける。 そこには凪沙がいて俺の横を通って風太のところに向かっていた。 傍にいた俺だけが気付いた…凪沙の笑みに… ゴミを取るだけで首を絞めるような手の形になるのか? 俺には判断する余裕もなく、凪沙が風太の肩を支えて保健室に向かうのが見えた。 椿くんも後を着いていき、重い教室の雰囲気の中…俺だけが孤立していた。 周りからの軽蔑の眼差し、それが小学生の時と被る。 怖くて苦しくて過呼吸になる。 友達なんて、作らなければ良かった…分かってた筈なのに…友達が出来ても皆いつも俺から離れてしまう。 …思っていた以上に楽しかった、抜け出せなかった…その結果、傷つけてしまった。 頭に衝撃が走る。 誰かが俺に向かって物を投げてきた。 投げられたものは舞台の台本だった。 固まる俺の肩を痛いほど掴み振り向かされて胸ぐらを掴まれた。 相手はこの舞台を提案した福田だった。 「お前、俺らに恨みでもあんの?せっかく皆一生懸命やってんのに」 「ち、ちがっ…」 「違わねぇだろ!!空気を悪くするわ主役の岸に怪我負わすわで、そんなに不満なら出てけよ!!お前の顔なんて二度と見たくねぇ」 福田に思いっきり突き飛ばされた。 風太の時と同じように机と椅子を巻き込み倒れる。 腕も背中も痛い、これが風太が感じた痛み。 視線が突き刺さる。 起き上がろうとしたら腹を踏まれた。 一瞬息が止まった。 「お前、岸と仲良かったんだろ?岸の痛みはこんなんじゃねーよ」 周りが福田を煽り福田は俺を殴った。 小学生ではなかった直接的な暴力、俺は震えた。 痛い痛い、怖い…助けて…誰か… 長かったのか短かったのか分からない暴力は終わった。 俺は怖くてパニックになり、気絶した。 さすがに周りは俺の制服の隙間から覗く痣に少しやり過ぎではと思っていたが興奮状態の福田に誰も何も言えずただ見ていただけだった。 「もも…ちゃん?」 たった一人だけ声を発していた。

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