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第8話
「本当に大丈夫?僕も行こうか?」
「平気…風太は先帰ってて」
風太は本当に優しい、昨日知り合ったばかりの和音にここまでしてくれる。
風太を巻き込みたくなくて、安心させるようにぎこちない笑みを向ける。
笑うのに慣れてないから、これが俺なりの笑顔だった。
それが面白かったのか風太は吹き出して笑った。
まさか笑われると思ってなくて目を丸くする。
少し不安になり頬に触れる。
「そんなに、変?」
「はははっ!ごめんごめん!あ、そうだ…和音、ID交換しよう」
「ID?」
「SNSやってないの?」
スマホを持ってるが、連絡する相手なんて家族くらいだから分からない。
一応緊急時用に城戸さんのアドレスも入れているが緊急時用だからメールのやり取りはない。
言いたい事があったら直接話すし、城戸さんはあまり携帯を見ないからそっちの方が早く伝わる。
風太に教えてもらい、なんとか交換する。
…何だか初めての事でジッとスマホを眺める。
これがメッセージアプリか、なるほど。
「じゃあ家帰ったら連絡ね!忘れないでよ」
「わ、分かった」
風太は手を振り教室を出ていった。
スマホを鞄にしまい、俺は階段に急いだ。
待たせるのも悪いし、待たせたら何されるか分からず怖かった。
階段に近付くと足が重く感じた。
当然だが凪沙は先に来ていて、壁に寄りかかっていた。
俺が来ると凪沙はニコッと笑った。
「来ないかと思った」
「…約束は、守る…君こそ、彼女と帰れば良かったのに…俺は気にしない」
「あれは…偽物だからどうでもいい」
俺は自分との約束をすっぽかしてくれればありがたいと思い、つい本音が溢れる。
凪沙の言葉が理解出来ず首を傾げる。
偽物ってなんだ?本物がいるって事?
今朝は一緒に登校するぐらいは仲が良かったのに…
考えてる暇はなく凪沙はゆっくりと俺に近付く。
凪沙の足に合わせて俺も後ずさる。
「そんな事より、早くかくれんぼしよ」
俺は頷き、早く終わらせたいと思った。
ルールはこの学園の敷地内なら何処に隠れてもいいが、部室とかは入れないのは当たり前だから自然と隠れる場所は限定される。
外は正直見つかりやすい気がする、校舎から丸見えだし…
なら、凪沙が来なさそうな場所…何処があったか。
じゃんけんをして鬼を決める。
やはり俺は負けた。
凪沙が強すぎるのか俺が弱すぎるのかわからない。
「じゃあ俺が鬼だね、隠れていいよ」
「な、なんで?俺が負けたのに…」
昔から思ってた疑問を怪しまれない程度に口にする。
いつも凪沙が勝って鬼をしている事を俺が知ってたら不自然だ。
だって今は他人のフリをしているから…
凪沙は疑問の意味が本気で分からず首を傾げている。
…首を傾げたいのはこっちだというのに…
手のひらを閉じたり開いたりして遊んでいた。
「なんでって、じゃんけんで負けた方が嫌な役をやるんでしょ?俺にとっては鬼がご褒美だからだよ」
鬼を進んでやりたいなんて…世の中にはそういう人もいるだろうが、変わってるなと思った。
俺の場合一番疲れる鬼なんてやりたくない。
でも、凪沙の場合…変わってる人の中でも特に変わってる部類の気がした。
見つけるのが好き、それだけが理由じゃない気がするが…深く聞きたくなくて口を閉ざす。
聞いてはいけないと警報を鳴らしている。
凪沙は壁に寄りかかり瞳を閉じた。
「じゃあ、10秒数えたら探しに行くから…部活終了時間になったら終了ね」
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