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第10話

「まぁ、いろんな人がいるって事だよ…桃宮は淫乱ビッチだけど」 あまり苗字を言わないでほしい、自分が言われてるようで嫌だ。 この人はなんで他人の行為を聞いているのだろうか。 しかも男の子の声を聞いて、何がしたいのか理解出来なかった。 ……謝りに行きたいが、知ったら傷付くだろうし行かない方が良いのかな。 たとえ男の子の声でも正直罪悪感で苦しくなる。 この人は慣れてるように感じたが苦しくならないのだろうか。 「なんで、こんな事をしてるの?」 「だって面白いじゃん!興奮はしないけど」 面白いだろうかと苦笑いした。 もう終わってシーンと静まった空き教室で机が動く音がした。 机から降りた男は空き教室から出ようとしてチラッと俺を見た。 その顔は面白いものを見つけたような顔だった。 ビクッと怯えて後ずさると追いかけるように近付いた。 何となく凪沙に似てる気がして少し怖い。 「君、誰かに追われてるみたいだけど…俺を楽しませてくれる?」 「…え、あっ」 「じゃあね!」 男は手を振り空き教室を出た。 再び静かになった。 何だかここにいると変な感じがするので俺も出た。 その時、部活終了のチャイムが鳴った。 コツンと足音が廊下に響く。 足音の方向を見て驚く。 「………」 凪沙がこっちを見ていた。 その顔はとても不機嫌だった。 もう部活終了のチャイムが鳴ったし、終わりで良いんだろうか。 見つけて嬉しそうにしてないからそうだと思う。 早く帰りたいと思いながら拳を握る。 俺はビクビクしながら凪沙に向かって恐る恐る口を開いた。 「俺の、勝ち…だよね」 「ねぇ、誰かと一緒にいた?」 俺の言葉を無視して凪沙はそう言った。 …なんで、誰かと一緒にいた事を知ってるのだろうか。 見ていた?いや、見ていたなら捕まえにくる筈だ。 一度も空き教室に来ていない筈なのに何故知ってる? それと凪沙の不機嫌と何の関係があるか分からない。 凪沙はため息を吐いた。 「俺、言ったと思うけど…ももちゃんは探せるけど、それ以外は探せないんだよ…ももちゃんが他人と居たら探せないの」 「…そ、んな事…ない、俺がももちゃんじゃないからっ」 俺が言い返すとドンッと耳元で鈍い音がした。 コンクリートの筈の壁に穴が開き怖くて泣きながら震えた。 凪沙に殺される…無意識にそう思った。 凪沙は俺をジッと見つめた。 コンクリートを殴った手で優しく頬に触れて涙を拭う。 目を潰されそうな恐怖に怯える。 「…かくれんぼは一時中断するよ、君が一人で隠れないから」 「………」 そんな事ない!ともう一度強気に言えれば楽だが、彼の言う通り一人で隠れてないから何も言えない。 それに、今は大人しくしていた方が賢い選択だろう。 まだ何処かでチャンスがあるかもしれない、それを信じるしかない。 凪沙の触り方が壊れ物を扱うような触り方で戸惑う。 凪沙は昔俺に遊びを断られて恨んでるんだと思うのに、そんな大切に触られたらどうしたらいいか分からなくなる。 涙はいつの間にか消えていた。 「…ももちゃん」 「だ、だからももちゃんは俺じゃ…」 「自分がももちゃんだって認めさせてあげるよ」 そんな日は絶対来ないと思うが凪沙があまりにも自信満々に言うから後ずさる。 凪沙は俺の耳元で囁いた。 恐怖で身体が震える。 そして凪沙は俺を通り過ぎて廊下を歩いて行った。 凪沙が見えなくなって、俺は崩れるように床に座り込む。 すると、カサッと音がしてズボンのポケットに触れた。

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