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第11話

今まで忘れていたポケットに入れていた手紙を取り出し、開けて見る。 背筋が凍るように感じた。 そこには一言だけ、書かれていた。 ーずっと見てるよー 誰が送ったのかきっと今朝見ていたら分からなかっただろうが、今なら分かる。 凪沙の最後の言葉が頭から離れない。 心に染み込んでいくようだった。 『絶対に逃さないから、覚悟してよ』 俺は人がいない廊下で声を押し殺して再び泣いた。 …その涙は何なのか、分からない。 ーーー 学園の帰り道、コンビニで弁当を買い家に急いだ。 見られてる視線は相変わらずで、気持ち悪い。 でも一つ一つ気にしてたら気が可笑しくなりそうで考えないようにする。 城戸さんに会って癒されたいが、それも見られてる気がして会うのをやめた。 なんで平凡な自分にそこまで執着するのか分からない、周りには美人がいっぱいいるのに… 部屋に入るとより視線が強くなった。 まさか、盗撮されてる?…いや、凪沙は家を知らないからないだろうと思う。 落ち着かない、何処にいても何をしても… 風呂から上がり、髪を拭きながら廊下に出る。 玄関にずっと放置していた鞄がポツンと寂しげに置いているのを見つめて思い出した。 そういえば風太とID交換したっけ。 風太に帰ったとメッセージを送るのを忘れていて鞄からスマホを出してSNSを開く。 そこには風太のメッセージが表示されていた。 『大丈夫?ちゃんと帰れた?』 もう20時だから急いで返信する。 帰ったら連絡するって言ったから余計な心配掛けてしまう。 『ごめん、遅くなった…大丈夫だよ、ちょっと疲れただけ』と歩きながら返信して、テーブルにスマホを置き夕食の弁当を食べる。 何度か、風太とメッセージのやり取りをしているともう一つ別の人からメッセージが来た。 風太以外とID交換していないんだけど…と思いメッセージを開く。 そして恐怖でスマホを床に落としてしまうが、拾いたくなかった。 SNSには「白川凪沙」の名前が書いてありー俺にはメッセージないの?ーと送られて来た。 風太とのやり取りって他人に丸見えなの?やった事ないから分からないけど…でも、なんで俺がSNSをやってる事を知ってるんだ? 今日やったばかりなのに… このSNSは名前検索がなく、ID検索で人を探すやつだから俺のIDを知らないとメッセージを送る事は無理だろう。 …やっぱり盗撮かと怯えていると新しいメッセージを知らせる電子音が鳴った。 恐る恐る覗くと風太だったみたいで『今日部活見学してきてさ、サッカー部に入る事にしたんだけど和音もどう?』と送られてきた。 俺は仕送りだけだと生活がギリギリだからバイトをしようと考えていて『バイトするから出来ない』と送った。 聖帝学園はバイト禁止じゃないが、金に余裕がある生徒が多く通っているからバイトする生徒なんてほとんどいないだろう。 一人暮らしをしていると知らない風太は欲しいものでもあるのだろうぐらいに思って『頑張れ!』と可愛らしいスタンプと共に送られる。 凪沙からはあのメッセージ一つだけで、気になりプロフィールを見る。 …ほとんど空欄のやる気のないプロフィールに何故か桃のアイコン画像だが、友達の数を見て軽く引いた事はここだけの秘密。 …だって、有名な芸能人と並ぶほどの数を見たら怖すぎてすぐにスマホの電源を落とした。 あんなに友人がいるならそっちにメッセージ送ればいいのに… 「…そんなに嫌われてんのかな、俺」 そうとしか思えず、視線に包まれながら眠った。 今日は緊張したり走ったり忙しかったから夢を見ずぐっすり眠れる気がした。 …余計な事は考えず…眠りたい。 ーーー ※白川凪沙視点 監視カメラのモニター画面が暗くなり、眠った事が分かる。 モニター画面を撫でる、やはり本物じゃないとつまらない。 イヤホンを外し微笑む。 「おやすみ、ももちゃん」 今日も沢山歩き回って可愛かったな。 風呂に入った時は興奮して何度も抜いた。 怯える姿がとても愛しい。 いちいち自分だけに特別に反応してくれて嬉しい。 もっともっと怯えて頭いっぱいになれば、他人が入る隙なんてないよね。 それにしても、あの男は邪魔だな。 …岸風太、だっけ。 ももちゃんを守れないくせに周りをうろちょろして、ももちゃんの視界に入るだけで不快なのに… また消したら、きっとももちゃんはまた忘れる。 昔見た変質者みたいに… 警察には届けていない、だって汚い手でももちゃんを触ったんだよ?警察なんてアテにできないから処刑してやった…方法は聞かない方がいい、きっと具合悪くなるから… 揉み消すのは簡単だ、それほど大きな家に生まれたから…本当は親の手なんて借りたくないけど… ももちゃんに会うために一人暮らしを始めた。 ももちゃんの帰りがよく見えるようにアパートの向かいのマンションを買った。 …これからももちゃんと暮らす場所だから安いマンションなんてももちゃんに似合わないと思い高級マンションにした…それでも安いがももちゃんがよく見えるマンションがココしかなかった。 壁一面にはももちゃんの小学生、中学生の写真がびっしりと貼られていた。 少し空いてるスペースには高校生のももちゃんの写真が入る。 ももちゃんがいなくなった2年間とても悲しかった。 ももちゃんはきっと無理矢理脅されて家に遊びに行き酷い事をされたんだと思った。 だから罪悪感でかくれんぼしてくれなくなったんだ。 ももちゃんが転校してから教師も生徒も崇拝して学校のトップになったが、ももちゃんがいないからとてもつまらない。 ももちゃんを家に呼んだ生徒はいなかったから、きっとももちゃんは照れていて嘘を付いたのだろうと思った。 中学から一人暮らしをして、ももちゃんと同じ学校に行きたかったがまた照れてしまいそうで隣の中学に入学した。 そこからももちゃんのクラスが丸見えで眺めるのが好きだった。 告白してくる女達が鬱陶しくて、適当な女と付き合った…名前に桃が付いてるだけだからももちゃんみたいな魅力はない。

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