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第18話

授業が終わり、凪沙に声を掛けられる前にさっさと風太達に手を振り帰る。 またかくれんぼしようと言われたくないから…自意識過剰で終わるならそれでいいけど… 学園を出てもずっと凪沙に見られてる感じがして振り返るが、そこには誰もいなかった。 ……自意識過剰、だよな? アパート前に着くと、誰かが立ってる事に気付いた。 自分と城戸さんしか住人を知らないから何処かの部屋の住人だろうかと気にせず横を通り過ぎる。 挨拶ぐらいした方がいいんだろうけど人見知りの俺にはハードルが高かった。 「あ、ねぇ君」 追い越したところで声を掛けられた。 驚いて振り返ると、ビシッとスーツを着た黒髪のカッコイイサラリーマンみたいな男性的がいた。 なにか困ってるのか、困り顔もカッコ良くてこんな大人になりたいと見つめていた。 緊張して鞄を持つ手に力が入る。 人が良さそうな笑みを浮かべた男性は俺に近付いてくる。 でも何故か手が震えた。 「人を探してるんだけど、君…此処に住んでる?」 「はい」 「城戸さんって知ってる?」 城戸さん…といえば管理人の城戸さんだろうか。 じゃあこのアパートに越してくるのだろうか。 いかにも高級マンションの最上階に住みそうだから少し怪しみ、言ってもいいのか迷う。 城戸さんに無断で話してトラブルになったら嫌だしとチラッと男性を見た。 顔は同じく笑っているのに雰囲気が変わった。 まるで俺に興味がなくなったような、無関心。 「知らないならいいよ、ばいばい」 男性は俺に聞くのを止めてまたアパートの前をウロウロする。 悪い人には見えないし、本当に困ってるみたいだし城戸さんの名前を知ってるなら知り合いかもと口を開いた。 すると、カランカランと喫茶店のドアが開いた。 そこにはゴミ捨てに外に出た城戸さんがいた。 ちょうど良かったと明るい顔で城戸さんに手を振った。 「城戸さん!」 俺が大声を出し城戸を呼んだ。 城戸さんは俺の声に反応してこちらを見てゴミ袋を地面に落とした。 城戸さんの顔はとても怯えたような顔をしていた。 あの顔、そうか…それであの男性を見て震えていたんだ。 城戸さんが喫茶店の中に入るより先に男性が城戸さんに近付く。 …なにか悪い事をしてしまったような気がして俺も城戸さんを心配して近付く。 「何しに来たんだよ、もう終わっただろ」 「あんな電話じゃ納得出来ない!理由を説明してくれ!」 会話の内容からして、もしかして彼は今朝城戸さんが電話をしていた相手? もしかして俺はいけない事をしてしまったのか? 恋人が男だったのに驚いていたら、城戸さんが俺に気付いた。 それに釣られ男性もこちらを振り向く。 城戸さんのその顔は怯えの中に俺を心配する優しさが見えていた。 俺のせいなのにと胸が痛んだ。 「…和音くん、なんか彼がしたならごめんね」 「い、いえ!それじゃあ俺、帰ります」 「君にはお世話になったね、ありがとう」 最後に男性が優しく微笑み、見た事ある顔だなと思いながらアパートの階段を上る。 まだ二人の話し合いは続いていた。 震える手で鍵を差し込み、急いで中に入る。 あの男性の顔がとてもそっくりだった。 凪沙の怖い笑みと… もしかして、あの人も凪沙と同じ? だとしても、凪沙に何も出来ない俺がなにか出来るわけもなく小さく玄関で震えていた。 怖いけど、優しい城戸さんが悲しむ姿は見たくない。 喫茶店が終わる時間ならもう話はとっくに終わってるし、邪魔にならないだろうから城戸さんに会いに行こう。 そう決意して、その前に冷や汗を流すために風呂に向かった。 ーーー 夜、喫茶店が終わる10時頃に城戸さんに会いに行った。 喫茶店の電気は消えていてもう帰ったのかな?と思い、不自然なものに気付いた。 ドアは閉店の札がぶら下がっていたのに、オススメメニューが書かれた看板は外に置いてあった。 いつもは閉店と同時に中に入れるのに… 恐る恐るドアに近付き引くと、カランカランと音がした。 開いていた事にびっくりして嫌な予感がした。 手探りで電気を付けた。 喫茶店の中は何も変わっていなかった。 今日は客がいない日だったのだろうか。 しかし全然安心出来ず震える唇で声にした。 「き、城戸さん?いますか?」 微かだが、カウンター席の向こうで物音がした。 普段は城戸さんしか立ち入らない場所に初めて踏み入れる。 そして、全身が凍りついた。 店内は普通なのに、カウンターの裏は荒れていた。 床には皿の破片が散らばっていてグラスも割れていてこの場所だけ他とは違う異常な感じがした。 いったいここでなにがあったんだ、想像するだけでも怖かった。 カウンターの奥の隅にいた人影に気付いた。 小さくうずくまるその姿に見覚えがあった。 カウンターの中に入りジャリジャリと破片を踏みつけながらその人物に近付くとビクッと体が震えてるのが分かった。 「城戸さん」 城戸さんに駆け寄る。 城戸さんは俺の声に反応して伏せていた顔を上げる。 その目は虚ろで俺が目の前にいる事を認識しているのか不安になる。 こんな城戸さん初めて見た。 弱々しく俺を見つめる城戸さんが危なっかしく感じた。 破片は散らばってるが見た限り城戸さんには怪我がなくて良かった。 「……和音、くん?」 「はい、城戸さん…いったいなにが」 なにがあったのか聞こうとしたら、城戸さんは俺を抱きしめた。 見慣れた城戸さんのシャツのボタンは取れていて、エプロンをしているが下は何も穿いてないようだった。 なにがあったのか、そう考えるだけでゾッとした。 男同士だし、そんな事はあり得ないだろうと入学前はそう思っていただろう。 …でも桃宮のアレを聞いてからだと考え方が大きく変わる。 震える体を抱きしめ返す。

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