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第22話

会長が菓子折りの箱を弄っていた。 不思議に思い、眺める。 「そうだ、吐いたから腹空いてない?食べる?和菓子だけど」 「だ、ダメですよ!だってそれは…」 「いいよ、どうせアイツすぐ捨てるし」 そう言った会長の瞳は、見た事がないような冷めた瞳をしていた。 無の凪沙とは違い、その瞳は密かに怒りを露わにしていた。 菓子折りをあげる人の事が嫌いなのだろうか… ペットボトルのキャップを開けて口を付けた。 喉に冷たい水が流し込まれる。 一つため息を吐くと俺の前に白くて丸い包み紙と黒くて丸い包み紙を見せた。 「饅頭だけど、白あんとこしあんどっち食う」 「あ、じゃあこしあんで」 開けてしまったものは食べなくてはと思い二人で奇妙な時間を過ごした。 時々会長が「青姦してる奴いないかなぁー」とか公園の草むらを眺めて言うから白い目を向けていた。 お饅頭はさすが金持ちの菓子折り…今まで食べたお饅頭の中で一番美味しかった。 のんびりほのぼのとした時間は風太達と過ごすそれとは少し違って見えた。 なんだろう、ちょっと懐かしいな。 公園のゴミ箱にゴミを捨てて俺を見た。 「じゃあ俺一応行くだけ行くから、君はもう少し休む?」 「いえ、友達を待たせているので行きます」 もう夕方になってしまって風太達は帰ったのかもしれないが、行くだけ行ってみようと思って立ち上がった。 会長とは公園の入り口で別れた。 ちょっと背中が寂しげに感じたが気のせいだろうかと少し心配になった。 風太にSNSで何処にいるかと連絡するとまだその辺にいるみたいでホッとした。 先に返ってたらどうしようと思ってたから良かった。 これからいなかったぶん頑張ろうと頬を叩き気合いを入れる。 始めに来たメンズショップで待ち合わせをして向かった。 「ご、ごめん!待たせちゃって!」 「おー!和音!」 店の前に二人居てホッとしたのと同時にとても申し訳なく思い謝る。 二人は何でもない事のように笑い、逆に俺を心配していた。 そういえば休むって連絡したっけと思い必死に謝る。 謝る事ばかりだと思っていたら風太は苦笑いした。 よく見れば買い物をしたのか風太と椿くんは買い物袋を持っていた。 せめて荷物持ちをしようと下げた頭を上げた。 「もういいって!それより和音と行きたい場所があったんだ!」 「…行きたい場所?」 風太は目的を告げず俺の腕を引っ張り歩き出す。 椿くんは知ってるのか微笑んでいるだけだった。 荷物持ちをする提案は即却下された。 されるがまま歩くと店が並ぶ道を通り過ぎて、人気がない場所までやってきた。 何もない街を見渡せるだけの小さな丘の上で風太は腕時計を見る。 なにか始まるのだろうか、分からない。 「和音ナイスタイミングだね、間に合って良かった」 「…?」 丘にだんだん人が集まってきた。 何だがカップルが目立つが本当になにが始まるのだろうか。 日が落ちて丘から見える街はポツポツと明かりが点りだす。 しばらくそれを眺めていると、突然色鮮やかに光り、まるで光の花畑のように美しい光景が広がった。 こんな景色、見た事ない。 口が開けっ放しになり魅入る。 「すごい、きれい…」 「だよね!今日このイルミネーションをやるって椿から聞いて和音に見せたくて遊びに誘ったんだよ」 なんだか感動して目元が熱くなる。 風太と椿くんに感謝した…こんな俺と友達になってくれてありがとう、素敵なものを見せてくれてありがとう。 本当は、こんなに綺麗じゃないのに… ごめんなさい。 イルミネーションを堪能して帰った。 今日は楽しかった、また遊ぼうと約束した事を思い出し微笑みながら、暗い夜道を歩く。 二人の家は俺の家とは反対方向だから帰りは一人で寂しい。 でも暖かな友情を感じて嬉しくなった。 俺の居場所はここなんだって、そう思えた。 「楽しそうで良かったね、ももちゃん」 「っ!?」 ぞくっと甘ったるい声が静かな道に響き、立ち止まる。 さっきの暖かかった気持ちが一気に冷える。 振り返るのが、怖くて棒立ちになっていると腕が絡みつき抱きしめられた。 もう一度「ももちゃん」と囁かれて涙を流す。 俺の首元に触れる冷たい手がさらに恐怖を感じた。 カタカタと体が震える。 「楽しかったね、買い物して綺麗な夜景を見て」 「…な、で…知って…」 「ももちゃんの事なら何でも知ってるよ、あの男といた事も」

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