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昼休み、日あたりのいい中庭は混雑していた。
喧噪にまぎれているほうが、会話は周りに届きにくい。
緑は林藤を促して、食堂のわきに並ぶ自動販売機の前からベンチに移動した。
「おれ、もうだめかもしれない」
頭を抱える勢いで緑が言うと、なんだそれ、と林藤があきれた。
「何がだめなんだよ」
「バレそう。委員長に」
「恋心が?」
「そう」
「まあ、おまえそういうの隠せなさそうだもんな」
「そうなんだよ」
緑は紙パックのコーヒー牛乳にストローを差し込み、つ、と吸った。
「おれも、林藤みたいに言っちゃおうかな。委員長に」
「柄にもないこと言っちゃって」
隣で林藤は、いちご牛乳の紙パックから伸びたストローを加えている。同じ牛乳で割られているというのに、二人はお互いの好きなものを飲むことができなかった。二つの味は、似ていてもまるで違う。
「でも、ちょっと本気だったりするんだよな、実は」
「告白しちゃうってことか?」
「だってなんか、隠してんのって落ち着かないんだよ」
「やめといたほうがいいと思うけどなー。おまえって冗談にできなさそうだし。フラれちゃったらどうすんのよ」
林藤の言葉に、緑は深くうなずく。
「そうなんだよ。フラれたらやっぱり気まずいよな。おれ、たぶん林藤みたいにしつこく言い寄ることはできないし」
「しつこくって言うなよ、ひどいナ」
「ははは」
「ま、いいさ。おまえもちゃっちゃとフラれてさ、仲間になれよん」
「仲間ねえ」
「ま、せいぜいがんばりたまえ、みどりチャン」
林藤は、飲み終わった紙パックを折りたたんでゴミ箱に投げた。
「応援してくれるわけ? 林藤はいいの?」
「何が」
「おれが、委員長に告白しても」
だからサ、と林藤は笑った。
「なんでそれを俺に許可とらねえといけねえんだっつの」
予鈴が鳴った。次の授業は移動教室だ。
林藤が立ち上がって、顎をしゃくった。
見上げると、校舎の二階の渡り廊下に波の姿が見えた。二人で、その横顔が消えてしまうまで見送った。
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