2 / 146

第一章・2

 ホテルのカフェは、落ち着いた橙色の灯りに揺らめいている。  静かなピアノの調べが、響く。  夜も更けているので、客の数は少ない。  その中に、亜希は腰を落ち着けた。  うつむき、震え、膝の上で小さなこぶしを握っていた。 「ご注文をお持ちしました」 「あ。ありがとうございます」  喉が渇き、妙に体が火照るので、亜希はパッションフルーツのジュースを頼んでいた。  立ち去るウエイターの背中を見ながら、ストローに唇を当てて、軽く吸う。  フレッシュな、甘酸っぱい果汁が口の中に広がったが、その途端に吐き気がこみ上げてきた。 「う……!」  思わず口に手を当て、むせる。  目に、涙がにじんでくる。 (ダメだ。僕、ここで吐いちゃうかも)  固く目をつむり、もう一度瞼を開いた時、亜希の視界は誰かに遮られていた。 「大丈夫ですか?」 「え?」  口をふさいだまま、亜希は顔を上げた。

ともだちにシェアしよう!