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第一章・2
ホテルのカフェは、落ち着いた橙色の灯りに揺らめいている。
静かなピアノの調べが、響く。
夜も更けているので、客の数は少ない。
その中に、亜希は腰を落ち着けた。
うつむき、震え、膝の上で小さなこぶしを握っていた。
「ご注文をお持ちしました」
「あ。ありがとうございます」
喉が渇き、妙に体が火照るので、亜希はパッションフルーツのジュースを頼んでいた。
立ち去るウエイターの背中を見ながら、ストローに唇を当てて、軽く吸う。
フレッシュな、甘酸っぱい果汁が口の中に広がったが、その途端に吐き気がこみ上げてきた。
「う……!」
思わず口に手を当て、むせる。
目に、涙がにじんでくる。
(ダメだ。僕、ここで吐いちゃうかも)
固く目をつむり、もう一度瞼を開いた時、亜希の視界は誰かに遮られていた。
「大丈夫ですか?」
「え?」
口をふさいだまま、亜希は顔を上げた。
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