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第一章・3
顔を上げた亜希は、声の男を目にして小さく息を飲んだ。
まるで、周囲から切り取られたように、その姿が飛び込んできた。
まぶしいほどの、アルファのオーラを放つ大人の男性。
すらりと高い背丈を、上質のスーツで包んでいる。
黒い髪の乗った面立ちは、鼻梁が高く端正だ。
そして、黒い瞳は優しくこちらを向いている。
「具合が悪いのですか?」
「え、あ、いえ。その、大丈夫です……」
そうは言っても、亜希の白い肌の顔は青ざめている。
男は、亜希のテーブルに掛けて腕を伸ばしてきた。
その手は亜希の手首を軽く取り、しばらく気配を読んでいた。
「うん。脈は乱れていないようだ」
「え?」
「心配ない。私は、医者だよ」
「お医者様……」
男はウエイターを呼ぶと、ホットミルクを注文した。
「しばらく、傍にいても? このまま別れるのは、少し心配だ」
「いいんですか?」
「待ち合わせをすっぽかされてね。時間はあるんだ」
(こんな素敵なお医者様をすっぽかすなんて。どんな人だろう)
男の容姿と物腰、そして職業に、亜希は少し気分が落ち着いた心地がした。
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