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第一章・4
運ばれてきたホットミルクを勧めながら、男は亜希に名乗っていた。
「私は、菱 啓(ひし けい)。心臓血管を主に診ている、外科医だ」
「僕、青葉 亜希です」
「青葉と言うと、アオバ・エンジニアリングの御子息かい?」
「え!? いいえ、違います。ただの、青葉です」
これはすまない、と啓は柔らかに微笑んだ。
「いいホテルにいるものだから。つい、早合点して」
「僕、そんなお金持ちじゃないです……」
両手でカップを包み、ホットミルクを静かに飲む亜希を、啓は観察していた。
白い肌に、色素の薄い髪。
低い背丈に、華奢な手足。
(彼はおそらく、オメガだろうな)
そんな風に、見つめていた。
(だが、愛らしい顔立ちをしている)
そこで、啓の手が止まった。
愛らしい?
この私が?
初対面の少年に、愛らしい、などと?
(疲れているんだ。ただの、気の迷いだ)
見ると、亜希の顔はもう蒼白ではない。
頬には、赤みがさしていた。
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