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第二章・3
「さて。ミツバシの看板が見えたぞ。亜希くん、どちらに曲がればいい?」
「……」
「亜希くん?」
見ると、ぐっすり寝入っている亜紀の姿がそこにある。
啓は、くすりと笑った。
「眠ってしまったのか。では」
では、このままさらってしまおうかな?
啓は左にウインカーを点け、曲がった。
この先には、彼の住まうマンションがある。
「君は少し、健康的になった方がいい」
その痩せて悲しい体も、心も。
「患者を自分のマンションに運ぶのは、初めてだ」
まずは、質の良い睡眠を。
そして、滋養豊富な食事を三食。
「医者は、体力勝負だ。今のままでは、大学にすら入れないよ」
独り言を亜希に向けながら、啓は車を走らせた。
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