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第二章・4

 街で一番の、高級マンション。  その高階に、啓は住んでいた。  車をガレージに入れても、亜希が起きる気配はない。 「着いたぞ、亜希くん」  体を揺すっても、起きない。 「仕方がないな」  啓は彼を両腕に抱くと、エレベーターに乗った。 「何て軽いんだ」  もう少し栄養のあるものを食べて、体重を増やさないと。  そして、適度な運動。  それから……。  医者らしく亜希の体を気遣っていると、静かにエレベーターが止まった。  両手がふさがっているが、啓が自室のドアの前に立つと、生体認証のロックが開く。  彼は、難なく帰宅することができた。  人体を感知し、照明が灯る。  室内の空気は静まり返っていて、人の気配は無かった。 「来てないのか」  今夜、ディナーを共にすることになっていた、婚約者。  この部屋には自由に入れるようにしているのに、ほとんど寄り付かないのだ。  軽く鼻を鳴らし、啓は亜希を抱いたままベッドルームへ向かった。

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