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第三章・2
亜希は、その頃には全てを思い出していた。
ホテルのカフェで出会った、外科医の啓。
そういえば彼は、こんなことを言ってたっけ。
『待ち合わせをすっぽかされてね。時間はあるんだ』
どうやら電話の相手は、その人のようだった。
(そして僕は、車で送ってもらって。でも、どうしてベッドに? このパジャマは?)
答えは、啓の口から聞けた。
「亜希くん、車の中で眠ってしまってね。起こすのも可哀想だから、私のマンションへ招待したよ」
「す、すみません……!」
「いいよ。それより、起こしてしまったな」
もう一度、寝よう。
そう言って、啓はベッドルームの明かりを落とした。
しかし暗くなっても、亜希はなかなか寝付けなかった。
(電話の人、誰だろう。……恋人、かな?)
少し、胸が痛む。
(僕ってば、何考えてるんだろ。こんなに素敵な人、恋人がいたっておかしくないのに)
だが、恋人がいるのに、初対面の自分を同じベッドに上げたりするだろうか。
まだ謎の多い啓のことを考えながら、亜希はいつしか再び寝入って行った。
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