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第四章・6
「亜希くん。私の浮気相手になってくれないか?」
「ええっ!?」
啓の口元は笑っているが、目は笑っていない。
亜希は、動揺した。
「私が浮気をちらつかせれば、彼も少しは控えるだろう、と思って」
「つまり、浮気のお返し、ですか」
「そうだ。君が私の傍にいるところを見れば、彼は私が浮気をしている、と考えるだろう」
「うまくいくでしょうか」
「そう、深く考えないでいい。駄目ならダメで、また別の手を使うさ」
そこまで言うと、啓はコーヒーを飲み干し、亜希を見た。
じっと、返事を待っている顔だ。
(ど、どうしよう)
医大に入学、そして卒業するまで、いっさいの費用を負担する、と申し出てくれているのだ。
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