22 / 146
第四章・7
亜希が答えを出すのは、早かった。
(それに、菱先生は素敵な人だし)
婚約者を大人しくさせるための、偽りの愛人。
その肩書は亜希の胸をチクリと刺したが、迷っている暇は無かった。
「僕、先生のお世話になりたいです」
「良かった!」
では、と啓はにっこりと微笑んだ。
「これからは君のことを、亜希、と呼んでもいいか?」
「はい。菱先生」
「固いな。私のことは、啓さん、と呼んでくれ」
「け、啓さん……、ですか?」
いいね、と啓は椅子から立ち上がった。
そうと決まれば、引っ越しだ。
「亜希。今日から、私のマンションで寝泊まりしなさい」
「え!? あ、はい……。はい!」
亜希の前に、新しい道への扉が開いていた。
ともだちにシェアしよう!