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第五章・2
偽とはいえ、愛人。
当然、体を求められると思っていたのに。
「やだな。僕、何を期待してるんだろう」
頬を染め、掛布を顔まで被った。
(抱かれたい、なんて思っちゃうなんて)
しかし、こんな気持ちは初めてだ。
客の中には、結構なイケメンもいたのだ。
会社役員もいたし、お金持ちもいた。
それでも、抱かれたい、と考えたことはなかった。
「きっと、あれだよね。体を売ってた僕なんて、汚れてるから」
だから、抱いてくれないんだ。
そう思うと、涙がにじんでくる。
一筋流し、目尻に溜まる。
客に抱かれて泣いていたのに、今では啓に抱かれないから泣いている。
「僕の方から、抱いてください、なんて言えない」
もう、よそう。
こんなこと、考えるのは。
「僕は、啓さんの傍にいられるだけで、幸せなんだから」
そうして無理やり眠りに就くことが、亜希の日課になっていた。
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