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第五章・3

 快適な環境で、亜希は予備校から出た宿題を片付けていた。  以前はとても難しかった問題も、すらすら解ける。 「さすが、予備校の先生だなぁ」  それに、解けなかった問題は、帰宅した啓が教えてくれる。  勤務で疲れているだろうに、そうやって亜希を構ってくれる。  しかし、共に暮らし始めて実感したのは、その啓の多忙さだった。  診察に、手術。  他の医師たちとの情報共有や、カルテのチェック。  地方に出向いての学会や、論文の執筆。  製薬会社との、打ち合わせ。 「いけない。勉強に、集中しなきゃ」  ふと手が止まり、啓のことを考えている自分がここにいる。  時計を見ると、もう夜の8時を回っていた。 「啓さん、今夜も遅いな」  先に夕食を、と部屋から出ると、リビングのソファに誰かが座っていたので、亜希は驚いた。

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