「だ、誰ですか？」 「君こそ、誰？」 　驚いたのは、亜希の方だけではなかった。 　若い男性が、思わずソファから立ち上がっていた。 「僕は、青葉 亜希といいます……」 　竦む亜希を、男性は上から下まで視線で眺めまわした。 　そして、言った。 「僕は、王子 利実（おうじ としみ）。啓さんの、婚約者」 　は、と亜希は息を飲んだ。 　かねてから聞いていた、啓の婚約者。 　その彼が、突然目の前にいるなんて。 「青葉 亜希くんは、なぜここに？　君は、啓さんの何？」 「あの。その……」 　愛人だ、と自分の口から切り出すことを、亜希はためらった。 　それは、啓の口から言って初めて、効力を発揮するような気がしていた。 「僕は、医学生志望で。それで、啓さんにお世話になってます」 「ふうん。で、彼とは、もう寝た？」 「え！？」 　いともたやすく核心を突いてくる、利実。 　彼の迫力に、亜希はついとっさに応えていた。 「いいえ」 「だろうね」 　ふん、と小馬鹿にしたような目つき。 　亜希は、いたたまれなくなった。