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第六章・2
「夕食、まだだろう? これから食べ……」
「……ですか?」
啓の言葉と重なって、亜希の小さな訴えが聞こえた。
「僕が、汚れて、いるから。抱いて、くれないん、ですか?」
涙で切れ切れになりながら、亜希はそう訴えていた。
そんな亜希を胸に抱き、啓は少し腕の力を強めた。
「違うよ。亜希は、汚れてなんかいない」
「じゃあ、どうして」
「君は今まで、心無い大人たちに散々いじめられてきたんだ。身も心も、傷ついている」
だから、私は。
「だから私は、亜希を抱くことができなかったんだ」
「啓さん……」
亜希は、その胸に強く額を押し付けた。
匂いがする。
啓の、匂いだ。
「好きです。啓さん」
「ありがとう、亜希」
啓は少しその身を離し、亜希の額にキスをした。
二人の顔が、近づいている。
亜希は背伸びをし、啓の唇にキスをした。
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