30 / 146
第六章・3
亜希のキスに、啓は応えた。
ゆっくりと唇を押し当て、優しく食んだ。
そして、舌を差し出す亜希の頭を、いたずらっぽくコツンと叩いた。
「これ以上は、後で」
にっこり微笑む啓の表情は、穏やかだ。
ぎらついた欲情は、うかがえない。
その顔つきに、亜希は救われた。
今まで、お金のために体を許してきた大人たちとは、違う。
この人は、身も心もゆだねられる人なのだ。
「まずは、食事だ。準備しよう」
「はい」
亜希は、瞼をぬぐった。
涙は、もう乾いていた。
ともだちにシェアしよう!