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第六章・3

 亜希のキスに、啓は応えた。  ゆっくりと唇を押し当て、優しく食んだ。  そして、舌を差し出す亜希の頭を、いたずらっぽくコツンと叩いた。 「これ以上は、後で」  にっこり微笑む啓の表情は、穏やかだ。  ぎらついた欲情は、うかがえない。  その顔つきに、亜希は救われた。  今まで、お金のために体を許してきた大人たちとは、違う。  この人は、身も心もゆだねられる人なのだ。 「まずは、食事だ。準備しよう」 「はい」  亜希は、瞼をぬぐった。  涙は、もう乾いていた。

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