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第七章・3
疲れて寝入ってしまった亜希の髪を、啓は静かに梳いていた。
「偽の愛人、か」
そういう名目で、彼を囲い込んだが。
「あまりに、愛らしいな」
いけない、と自分を押しとどめる声がする。
「私には、婚約者がいるんだ」
自由奔放で、全く懐かないが。
それでも、家が決めた人間だ。
最終的には、結婚になる。
その時、亜希を諦められるだろうか。
揺らぎ始めた心に、コール音が響いた。
ベッドサイドのテーブルからスマホを取り上げると、そこには利実の名が。
「こんな夜更けに」
それでも通話を繋ぐと、あちらの方から喋ってきた。
『こんばんは、啓さん。今、何してた?』
「もう、寝るところだ」
『そう。隣に、あの子いるの? 亜希、とか言う子』
「いるよ」
そこで、利実は黙ってしまった。
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