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第八章・3
「その点、僕は抜かりないよ。ちゃんと一週間前にデートして、プレゼントも渡したんだから」
「一週間前に?」
「当然だろぅ。忙しい外科医のスケジュールなんだから。事前にこっちから、予約を入れておかないと」
ブルガリの腕時計を贈った、と尋ねもしないのに利実は喋る。
「彼、それなりに高収入だし、家柄もいいから。妙なもの、渡せないよね」
上から目線で、利実は亜希を見た。
格上の自分を誇示し、マウントを取ろうとした。
だが亜希は、態度を変えることは無かった。
憤りもせず、凹みもしなかった。
「高級腕時計。すごいな」
真っ直ぐに利実を見て、静かに言うだけだ。
「僕は、そんなにお金持ちじゃないから。これで精一杯なんです」
利実は、口を少し尖らせた。
(前に会った時と、何か違う)
そんな風に、感じた。
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