46 / 146

第九章 悪戯

「こんにちは、ご機嫌いかが?」  小声でそう言い、啓のマンションへ忍び込んだのは、利実。  ただ今日は、一人ではなかった。 「さ、上がっちゃって」 「いいのか? ここ、菱さんのマンションなんだろ?」 「大丈夫。僕はあの人の、婚約者だから」  利実は、浮気相手の男と共に、部屋へと上がり込んだ。 「それに。今は誰もいないって、解ってるんだから」  啓は、病院で勤務。  亜希は、予備校で勉強。  利実は無人の室内を、どんどん奥へと進んだ。 「そしてここが、ベッドルームでーす」 「間取り、良く知ってるな。菱さんと、ここで寝たのか?」 「当ったり前でしょ。婚約してるんだから」  妬ける? と利実は、牧山 慎也(まきやま しんや)を覗き込んだ。  憮然とした表情の、彼の頬を緩くつねって笑った。

ともだちにシェアしよう!