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第九章 悪戯
「こんにちは、ご機嫌いかが?」
小声でそう言い、啓のマンションへ忍び込んだのは、利実。
ただ今日は、一人ではなかった。
「さ、上がっちゃって」
「いいのか? ここ、菱さんのマンションなんだろ?」
「大丈夫。僕はあの人の、婚約者だから」
利実は、浮気相手の男と共に、部屋へと上がり込んだ。
「それに。今は誰もいないって、解ってるんだから」
啓は、病院で勤務。
亜希は、予備校で勉強。
利実は無人の室内を、どんどん奥へと進んだ。
「そしてここが、ベッドルームでーす」
「間取り、良く知ってるな。菱さんと、ここで寝たのか?」
「当ったり前でしょ。婚約してるんだから」
妬ける? と利実は、牧山 慎也(まきやま しんや)を覗き込んだ。
憮然とした表情の、彼の頬を緩くつねって笑った。
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