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第九章・2
利実は、慎也とは社交界で出会った。
資産家の両親を持つ彼は、しばしばサロンに出入りしていたのだ。
自称・芸術家の慎也は、あらゆる面で啓とは違って見えた。
ファッションセンスに、食事の好み。
好きなドリンクに、デートスポットに、車種。
激高しやすい性格さえも、優しいだけの啓と比べると新鮮だった。
堅物で、真面目で、クール。
そんな啓より、愉快で、熱くて、朗らかな慎也になびいていった。
「さ、始めようか。慎也さん」
「始める、って。何を?」
ベッドに腰掛けた利実は、悩まし気にその両腕を広げて、指をぱらりと動かした。
「来て」
「正気か?」
人のマンションに忍び込んで、留守をいいことにそのベッドで情事に耽る。
さすがの慎也も、ためらった。
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