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第九章・3
「大丈夫。むしろ、形跡を残すことが目的だから」
「どういう意味?」
「ちょっと、困らせたくなってね」
利実は、そこで亜希の姿を思い描いた。
生意気な、啓の愛人。
(身の程を、わきまえなさい。っての!)
予備校が終わるのは夕刻なので、啓より先に亜希が帰宅する。
その後に帰った啓が、夜に乱れたベッドを見れば、亜希が男を連れ込んだと思うだろう。
利実は、二人の間に波風を立てるつもりだった。
啓に問い詰められる亜希を想像するだけで、笑みが漏れてくる。
「さ、来て」
「じゃあ、遠慮なく」
背徳感からくる興奮に押されて、慎也もベッドに上がった。
キスをし、慌ただしく衣服を脱ぎ、横たわった。
「利実、綺麗だよ」
「うん、知ってる」
セックスの合間に挟まれる慎也の言葉も、利実は心地よく聞いていた。
自分を賛美する言葉に、酔っていた。
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