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第九章・4

「あ、ぁん。もう、ダメだってぇ……。変なトコに、歯型付けないで……」 「利実を、食べちゃいたいくらい好きなんだよ」  歯の浮くような言葉を、恥ずかしげもなく吐く慎也だ。  利実は、そんな彼に抱かれながらも、啓を思っていた。 (啓さんも、慎也さんくらい。いや、その半分でいいから、こういうところがあればいいのに)  彼に抱かれたことは、ある。  優しく、静かに。  慎重に、啓は利実を扱った。  それはそれで、大切に思われている気がした。  しかし、淡白過ぎてつまらない。  これでは、いかにも政略結婚の相手を抱いているようだ。  愛のないまま、抱かれているようだ。  啓を思いながら、利実は慎也に揺さぶられた。 (ああ、啓さんに抱かれてるみたい……)  啓の名を漏らさないように気を付けながら、利実は慎也に身をゆだねていた。

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