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第九章・5
「ただいま帰りました」
時刻は、午後6時。
予備校を終えた亜希が、帰宅した。
啓は、まだ帰っていない。
こっそりと利実たちが後にしたマンションに、亜希は戻っていた。
まずは、シャワー。
さっぱりした後で、復習と宿題と、予習だ。
啓が用意してくれたプライベートルームで勉強していると、背後に人の気配がした。
「啓さん! おかえりなさい」
「ただいま、亜希」
「今日は、早かったんですね」
「たまには君と、夕食を食べたいのでね」
「僕、準備します」
「ありがとう。私は、バスを使うよ」
キッチンへ消えた亜希を見送り、啓は自室へ向かった。
「ん?」
ベッドルームのドアが、細く開いている。
ここはいつも、きちんと閉めているはずなのに。
「亜希が、閉め忘れたのかな」
啓は、寝室に足を踏み入れた。
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