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第九章・6
「これは……」
照明を点け、啓は眉をひそめた。
明らかに、使用した跡の残るベッド。
近づいてシーツを確認すると、自分のものではない髪の毛が落ちている。
さらに、わずかだが乾いた体液の名残が。
ダストボックスを開けると、とどめとばかりに使用済みのスキンが捨ててあった。
「亜希……!?」
まさか。
まさか、予備校に行っていると思わせておいて、ここに客を呼び込んで?
それとも。
それとも、考えたくはないが、他に好きな男ができて?
啓は、混乱した。
取り乱すことが無かったのは、この男の持つ美点だった。
そこへ、何も知らない亜希がやって来た。
「啓さん。夕食の準備、できました」
配達された宅食なので、支度は短時間で済むのだ。
啓は、亜希を見た。
わずかに震える唇で、その名を呼んだ。
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