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第十章・2
「僕。僕……!」
「何か知っているなら、正直に話して欲しい」
「ごめんなさい。僕、本当に何も知らないんです!」
亜希の瞳から、涙がこぼれた。
清い、涙だ。
「僕、もう啓さん以外の人に抱かれたくないんです。信じてください。信じて……」
「もういい。悪かったな」
啓は亜希の言葉に、どれほど彼が自分を信じ、慕ってくれているかを知った。
どれほど、その情が深いかを、知らされた。
「少しでも疑った自分が、恥ずかしいよ」
だが、とも言った。
「いずれ、君も独り立ちする。誰か素敵な人を愛する、心の柔らかさを持つんだ」
「……はい」
はい、と口で返事をしながら、亜希は心の中では否定していた。
(啓さんより好きになる人なんて、いない)
一生、独身でいい。
啓さんと、たとえ離れても。
彼が、たとえ利実さんと結婚しても。
(僕はずっと、啓さん一人を愛し続けます)
その啓は、ベッドを調べている。
やがてうなずくと、スマホを手にした。
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