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第十章・3
『もしもし。啓さん?』
「利実くん。今日、私のマンションに来たか?」
『行ってないよ』
「おかしいな。ベッドに、君の髪の毛が落ちてたんだが」
そこで、傍で聞いていた亜希は、はっとした。
そうだ。
このマンションに、自由に出入りできる人間が、あと一人いた。
利実だ。
『それ、亜希くんの髪じゃない? 啓さんの留守中に、誰か連れ込んで……』
「亜希は、そんなことをする子じゃない」
『彼を、かばうの?』
「妙な悪戯は、よしてくれ」
啓は、人差し指で、親指の甘皮をいじっている。
冷静そうに見えて、少しイラついているようだった。
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