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第十一章・7

 啓は、我を忘れていた。  激しい行為の後、心の力が抜けていた。 「好きです。啓さん」 「私も、亜希のことが好きだ」  亜希の言葉にいざなわれるまま、ほろりと言の葉がこぼれた。 「好きです。啓さん……」 「好きだ。亜希……」  無防備な魂が吐いた、素直な気持ちだった。 (ああ。私は、亜希が好きなんだ)  ぼんやりとした意識のまま、自覚した。  啓の言葉を聞いたか聞かずか、亜希は眠りに落ちつつある。  その体を、啓は優しく拭き清めた。  そうしていると、愛おしさが増してくる。 「亜希。裸のまま寝ると、風邪をひくぞ」 「んぅ……」  力の抜けた亜希の体に、パジャマを着せる。  彼はそのまま、啓の胸の中でぐっすりと寝入ってしまった。  啓は、そんな亜希の前髪を掻き上げ、額にキスをした。 「好きだよ、亜希」  自分自身に刻み込んで、眠った。

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