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第十二章 啓の提案

「亜希。今夜、外で食事をしようか」 「いいんですか!?」  啓の言葉は嬉しいが、彼にしては珍しい申し出に、亜希は驚いた。  スケジュール管理に厳しい啓は、イレギュラーを好まない。  予定は必ず、少なくとも10日前に立てることが原則なのだ。  それを突然に、今夜、とは。 「啓さん、忙しくないんですか? お仕事、大丈夫ですか?」 「うん。たまには、と思ってね」  朝食のトーストにバターを塗りながら、啓は笑顔だ。 「コンサートのチケットを、2枚いただいてしまって。亜希は、クラシックを聴くかい?」 「コンサート。行ったことがないので、何とも言えないんですが……」  でも、啓と一緒なら、どんな音楽でも楽しめそうだ。  亜希の心は、どんどん弾んできた。 「行ってみたいです、コンサート。聴いてみたいです、クラシック」 「それは良かった」  食事を終え、啓は出かけてしまったが、亜希はその日一日舞い上がって過ごした。  予備校でできた友人に、クラシックについて尋ねてみたり。  啓にもらったチラシに書いてあった曲名を、検索してみたり。 「どうしよう。僕、楽しみで仕方がないよ」 「青葉くん、デートなんだね。いいなぁ」  友人が、何気なく言った言葉に、亜希はどきりとした。

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