65 / 146
第十二章 啓の提案
「亜希。今夜、外で食事をしようか」
「いいんですか!?」
啓の言葉は嬉しいが、彼にしては珍しい申し出に、亜希は驚いた。
スケジュール管理に厳しい啓は、イレギュラーを好まない。
予定は必ず、少なくとも10日前に立てることが原則なのだ。
それを突然に、今夜、とは。
「啓さん、忙しくないんですか? お仕事、大丈夫ですか?」
「うん。たまには、と思ってね」
朝食のトーストにバターを塗りながら、啓は笑顔だ。
「コンサートのチケットを、2枚いただいてしまって。亜希は、クラシックを聴くかい?」
「コンサート。行ったことがないので、何とも言えないんですが……」
でも、啓と一緒なら、どんな音楽でも楽しめそうだ。
亜希の心は、どんどん弾んできた。
「行ってみたいです、コンサート。聴いてみたいです、クラシック」
「それは良かった」
食事を終え、啓は出かけてしまったが、亜希はその日一日舞い上がって過ごした。
予備校でできた友人に、クラシックについて尋ねてみたり。
啓にもらったチラシに書いてあった曲名を、検索してみたり。
「どうしよう。僕、楽しみで仕方がないよ」
「青葉くん、デートなんだね。いいなぁ」
友人が、何気なく言った言葉に、亜希はどきりとした。
ともだちにシェアしよう!