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第十二章・2

「デート。僕が……、啓さんと……、デート!」  それは刺激的で、甘美な響きだった。  こうなるともう、勉強も手に着かない。 (どうしよう。何を着て行こうかな。髪、整えた方がいいかな)  待ち合わせの時刻が、気になって仕方がない。 (早めに出た方が、いいよね。渋滞とか、するかもしれないし)  そして、講義もそこそこに予備校を飛び出した。  途中でバスを降りて、ヘアーサロンへ立ち寄る。 「あ、あの! カッコよくしてください!」  美容師は微笑んで、カタログを亜希に差し出した。 「もしよろしければ、この中からお好みのスタイルをお選びください」  亜希は、予備校のテキストより真剣に、ヘアカタログを凝視した。  だが、多くあり過ぎてつかめない。  それが、果たして自分に似合うかも解らない。 「あの……。清潔感のある感じに……」 「かしこまりました」  美容師は笑みを絶やさず、亜希の髪をカットしてくれた。

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