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第十二章・3
マンションに帰った亜希はシャワーを浴び、終わるとすぐにクローゼットをかき回した。
どれも啓が買ってくれたもので、亜希にはぴったりだ。
「どうしよう。スーツの方がいいのかな」
かしこまらないコンサートなので、平服でいい、と啓は言っていたが。
「啓さんはお仕事帰りだから、スーツだよね。きっと」
スーツ姿の啓を思い描き、その隣に立つ自分を想像した。
「だったら、あまりくだけすぎるのも、ちょっと……」
一生懸命コーディネートした亜希のファッションは、素材やシルエットにこだわった高級志向。
大人の雰囲気を出すように、工夫した。
「こ、これでいいかな。啓さん、笑わないかな」
玄関でつい、履き慣れたスニーカーを引っ掛けようとして、慌ててとどまった。
革靴を準備し、用意は万全だ。
「よし! 行ってきます!」
誰もいないマンションに挨拶をし、亜希は勇んで出かけた。
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