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第十二章・4
待ち合わせは、コンサートホール前の広場。
時計塔の傍に、啓は立っていた。
今日は、ノー残業でクリニックを出た啓だ。
『菱先生が定刻で帰るなんて、珍しい』
『何か、あったんですか?』
『今から、あるんですよね。私が思うに、デートとか!』
医療スタッフに、いいように言われてしまった。
「デート、か」
我知らず、頬が緩んだ。
私が、亜希とデート。
(なぜだろう。心が弾むな)
まるで、初恋を再び味わっているかのようだ。
初めて会ったその時は、身も心もボロボロで、庇護せずにはいられなかった亜希。
だが、最近の彼は違う。
輝いて、見える。
眩しく、映る。
その魅力は、どんどん増していく一方だ。
想いにふける啓の耳に、朗らかな声が響いた。
「啓さん、お待たせしました!」
亜希が、到着したのだ。
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