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第十三章・6
少し身を乗り出した亜希だったが、花火はここからでは見えない。
「見たいか? 花火」
「え? あの、いえ……」
これ以上欲張っては、啓に迷惑だ、と亜希は遠慮した。
そんな彼に、啓はハンドルを握ったまま言った。
「さすがに今からでは無理だが、明日になら出かけられるよ」
「本当ですか!?」
途端に弾む亜希の声に、啓は苦笑いした。
(嘘の付けない子だな)
「明日は、病院へ行かなくてもいいからね。また……」
そこで、啓の声は途切れた。
「どうかしたんですか?」
また?
また、何だろう?
啓は、うん、と軽くうなずき、続きを言った。
「また、デートしよう」
「啓さん……」
ああ、デート。
(啓さんも、デートだ、って思っててくれたんだ!)
「僕。僕、嬉しいです。とってもとっても、嬉しいです……」
心がいっぱいに満たされた、二人の初デートだった。
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