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第十四章・3
「ちょっと亜希くん、生意気なんだ。だから、脅かしてやろうと思って」
「ふーん」
ここから先は、大声で話すのはまずい。
カフェには、彼らの他にも客がいるのだ。
ひそひそと声を潜め、利実は胸に抱いた悪事を慎也に持ち掛けた。
聞いていた慎也の口の端が、上にあがる。
「……どう?」
「面白そうだな。やろう」
後は日時を決め、二人は仲良くカフェを立ち去った。
仲良く、と思っているのは慎也だけで、利実はすでに彼を見限っているのだが。
(こんな意地悪の片棒担ぐような男、終わってるよね)
腕を組みながらも、心の中で舌を出している利実だ。
その意地悪を考え付いたのは、他でもない自分であることは、棚に上げていた。
(そろそろ、啓さんと結婚しちゃおうかなぁ)
結婚して、つまんなくなったら浮気すればいいし。
離婚しちゃっても、構わないし。
富豪の息子として、大切に甘やかされて育った利実には、人の痛みを知る能力が決定的に欠けていた。
あまりにも自分本位にしか、思考が働かなくなっていた。
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