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第十五章 予期せぬ事態

 啓は、夜の病院にいた。  今度の学会誌に間に合わせたい、論文があるのだ。  しかし、あと一歩のところでつまずいていた。 「やはり、具体例がいるな」  過去の文献などを検索し、症例があるか探していた。  そこへ、電話がかかってきた。  スマホを見ると、発信は利実だ。 「こんな時刻に。何だ?」  他愛ない用事なら、すぐに終わらせるつもりで、啓は通話を繋いだ。 「もしもし」 『啓さん。夜遅くまで、お疲れ様』 「何かな? 忙しいから、要件を早く言ってくれ」 『今すぐに、帰って来た方がいいよぉ』  そこで利実は手にしたスマホを、亜希の方へと向けた。  啓の耳は、その悲痛な叫びや、乱暴な足音をさとく拾った。 「利実くん! 亜希の身に、何が起きてる!?」  焦って問いただしたが、すでに通話は切れている。  啓は、院内のユニフォームのまま、研究室を飛び出していた。

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