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第十五章・2
利実は、スマホをバッグに収めると、くすりと笑った。
「焦ってる、焦ってる。ああ、啓さんってば」
そして、慌てふためいた彼が、息せき切ってここへ登場する、というわけだ。
「早く、啓さんに会いたいな」
理性の崩れた表情を、見たい。
あのクールな人の熱い一面を、むき出しにしたい。
「さて。そろそろクライマックスかな?」
利実は、リビングから逃げ出して家中を駆けまわる亜希を探しに、歩き始めた。
「亜希くん、いい子なんだけど。多分、僕よりもずっと、啓さんのことが好きなんだろうけど」
でも、彼と結婚するのは、僕だから。
「啓さんもきっと、僕よりも亜希くんの方が好きだよね」
でも、亜希くんは、あくまでも愛人だから。
「僕と結婚しても、二人の関係は続くのかなぁ?」
そこで初めて、利実の胸はチクリと痛んだ。
「ん? 何、これ」
僕ひょっとして、亜希くんにジェラシーを感じてる?
ふるっ、と利実は首を振った。
「無いない。そんなの、無い」
そんなの、僕らしくないんだから。
利実は悠然と、騒ぎ声の聞こえる部屋へ入った。
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