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第十八章・3

 バスタブに鼻まで浸かり、啓は考えていた。 『亜希くん。私の浮気相手になってくれないか?』 『私が浮気をちらつかせれば、彼も少しは控えるだろう、と思って』 『君が私の傍にいるところを見れば、彼は私が浮気をしている、と考えるだろう』  こんな言葉で、亜希と愛人契約を交わした。  しかし、その婚約者・利実との縁が無くなった以上、彼を愛人として扱う必要はないわけだ。  無理に浮気を装う必要は、ないわけだ。 「亜希……」  だが最近では、すっかり忘れていた。  亜希が、愛人であることを。  利実の浮気に対抗する、措置であることを。 「こうなった以上、彼を新たな目で見なくてはならないな」  それはもうすでに、心の中に芽生えている。  亜希への想いが募ると同時に、すくすくと育っている。  心を決めて、啓はバスタブから出た。

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