126 / 146
第二十二章・4
「いいだろう。だが、条件がある」
「条件、ですか?」
「これを機に、王子さんの御子息と結婚しなさい」
「え!?」
啓と利実の婚約が、白紙に戻されたことは知っている父だ。
しかし、彼はまだ諦めてはいなかった。
胸の内で、保留という形で残っていた。
「王子病院さんの協力を求めるのならば、利実くんと結婚するんだ」
手術が成功し、患者が健康になれば、今後この病院でiPS細胞を使った治療を続けられる。
その際に、王子病院と縁続きになっていれば、何かと便利で得なのだ。
合理的な父らしい、ものの考え方だった。
啓の返答を待たずに、厳しく言った。
「でなければ、この手術は許さん」
後はすぐに立ち上がり、応接室から出て行ってしまった。
有無を言わさぬ、院長の背中だった。
ともだちにシェアしよう!