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第二十三章 決意

 啓は、街で一番高価なホテルへ来ていた。  その展望レストランで、利実が現れるのを待っていた。  心の中で、彼に告げるべき言葉を、何度も練習しながら待っていた。 「夜景、きれいだね」 「利実くん、いつの間に?」 「さっきから、傍に立ってたんですけどぉ」  亜希くんのことで、頭がいっぱいかな?  そんな軽口を叩きながら、利実は席についた。  利実は利実で、亜希のことを考えていた。  啓が自分をディナーに招待したのは、その手術のことと思い込んでいた。  王子病院のiPS細胞を使っての、治験。  詳しい話を詰めるためだと、思っていた。 「利実くんに、折り入って頼みがある」 「いいよ。でも、食べてからにしない?」  お腹がすいた、と利実は運ばれてきた前菜の皿にフォークを伸ばした。 「ズワイガニとアボカドのエミエットに、キャビアのアクセント。このキャビア、いまいちだな」  屈託のない利実に併せて、啓も食事を始めたが、味がしない。  それほど啓は、思いつめていた。

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